９７・それぞれのクリスマス〜対決編
目を覚ますと、一時間十分寝過ごしていた。大遅刻だ。課長に怒られる。減棒だ。パンをくわえて「ちこくちこく」と走り出す。
「パトリック、勝負だ」
「サンタクローススタイルで現れたきみは、ミス・ターシャレか」
「説明的な台詞ありがとう」
「だって雑文では見えないからね」
「お返しに教えてあげる。減棒でなくて減俸よ」
「それも見えないぞ」
「駄洒落で勝負だ」
「私は会社に行きたいのだ」
「勝ったら通してあげる」
「だいたい嫌な予感はしていたんだよなあ、縛りの三つめが『クリスマスのしゃれ』だと聞いたときから。だいたい言語道断のときは某所の簡素ウランで『オチが弱い』と言われるし」
「なにぶつぶつ言っているの」
「今回のルールは『クリスマス駄洒落』だな」
「物わかりが早いわね」
「なんとなくわかる。七面鳥くさいのは抜きでとっとと始めよう」
「いくよ。ゲームブックの１ページめ、あなたは五老峰の別れ道にいるのじゃ。左→４５ 真ん中→１１７ 右→２１ ふぉふぉふぉ」
「その不自然な笑い声、付けひげ……三択老師か」
「やるわね」
「ホームラン５５本打ちましタ。ニポンシリーズ応援ありがとございましタ。うちに帰ってユニフォーム洗いマス。来年はワカナがいないから５６本打つヨ。ヨッシャー」
「その近鉄バファローズ帽子と汚れたユニフォームは……洗濯ローズっ」
「お見事」
「防水工事ならお任せ」
「”サンタック”ロースかよ。一般性がないネタは反則だぞ」
「でもほら、http://www.santac.or.jp/」
「ＵＲＬを貼っても駄目」
「じゃあもう一つ。グラディウスの親戚のコナミのシューティン’ゲーム」
「サンダークロス」
「簡単すぎたかしら」
「私は貧乏っ」
「あ、もう演技が始まっているのね」
「イブなのにお金がなくて飾りつけができない。そうだ、借り物でなんとかしよう」
「クリスマスリースね」
「ぼくはクルミが大好き。ふかふかしっぽの齧歯類」
「クリスマス栗鼠。リースのどんぐりをかじらないでよ」
「オレは天才っす！ みんなを引きつける強烈な個性っす！」
「カリスマっす」
「次はクリスマスソング・シリーズだ。もと阪神の外国人投手に子供が生まれたんだって」
「キーオ氏子供おる」
「サザエさんちはみんなメロウルック」
「東芝、光り」
「オタワと北千住からおめでとう」
「カナダからメリークリスマス、足立からメリークリスマス」
「三つから選ぶのじゃ、踊り子、タラバ、牛の舌。さっきの曲を英語で」
「三択老師、伊豆、蟹とタン。同じネタを使わせないで」
「つい茶目っ気を出してしまうんだよ」
「クリスマスといえば鈴の音ね。シャン」
「ずいぶんあっけないな。……シンプルベルか」
「よくわかったね、そろそろ独身生活三十年記念のくせに」
「シングルベル。大きなお世話だ」
「三重県に行ったら今までにない味覚が味わえるかもよ」
「新グルメ新グルメ鈴鹿にぁる」
「お料理すること食べること」
「今日は楽しいぐりとぐら」
「なつかしいでしょ」
「り、しかあっていないぞ」
「そんなことを言ったら、際限なーい。おーおーお。懲りなーい」
「では浅草名物だ。かんかんここん、かんかんかこんこん、ぶおおうぶおおう」
「そのラテン系のリズムは」
「かんかんここん、かんかんかこんこん、オブリガード、アルシンドになっちゃうヨ、ぶおおう」
「ときおり交ざる山伏の管楽器、アントラーズのユニ……真っ赤なお皿の法螺貝サンバ」
「よくブラジル語がわかったな」
「ポルトガル語でしょ」
「そろそろ仕事に行きたいのだが」
「わかった。いま指笛で呼ぶね。ぴー。ほらトナカイが来た」
「でもよくなついているね。はっ」
「わかった？」
「トナカイと仲いい」
「じゃあこのトナカイ、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムに乗って」
「ひねってないよ」
「ゴールデンバウムクーヘンあげる」
「もはやクリスマスに関係ないよ」
「ルドルフに告ぐ！」
「まずいって」
「じゃあオフィシャルソング『君を待ちながら』で一つやってよ」
「寿司のこと好きだって言えるはずもなくて」
「たららじゃんじゃんじゃん」
「まな板の上ウニは貯まったまま」
「おいしいのにね」
「君の好みは聞いていない。縛りもクリアしたし会社に行かせろよ」
「わかったわよ。あ、ユーフォーが。さらわれる。助けて」
「クリスマスキャトルミューティレーションだな。やい、そいつは狂牛病だから食べられないぞ」
「いいかげんなこと言わないで」
「胸は牛かもしれないが」
「変態」
「ビリヤードのキューを出して。えい。クリスマスキャロムショットだ。ちゅどーん」
「サンキュ。早いね」
「まとめに入ったからな。これでクリスマス雑文シリーズも終わりだし。早く会社に行かせてくれ」
「ルドルフ。空を飛んでいくわよ」
「わ…すごい。飛んでいるよ。信号も踏切も川も越えて、もう会社だ」
「ね、無理に着くのだった」