０９・宗論

　えー、毎度莫迦莫迦しいお笑いを申し上げます。えー昔から空海と最澄どっちが偉い、なんてちょっと議論になることがございますが、「宗論はどちらが勝っても釈迦の恥」なんてなかなか決着の付かないものでございます。

「権助や、権助」
「へえ、お呼びでございますか、旦那様」
「うちの伜はどうした」
「若旦那ですか、今日は教会に行っていらっしゃると思いますが」
「なに、教会、近ごろおかしな宗教に引っかかったとは聞いていたが、店の仕事をほったらかしでは困る、今日は言い聞かせてくれるからね、とめるんじゃないよ」
「ただいま帰りました」
「おや、伊三郎かい」
「オー、私のことを伊三郎と呼びましタか、私のことは伊三郎ではなく、イザベールと呼んでくだサイ」
「何がイザベールだよ、シャベルみたいなツラしやがって」
「……」（黙って手を差し出す）
「なんだい」
「ですカラ」（手を差し出す）
「なんだってんだい」
「オー、これは西洋の拍手、ノー（肩をすくめる）、握手の礼であります。ソウルと、ソウルの、ハンドシェークです」
「なんだい、日本人ならお辞儀をしなさい」
「オーマイスパゲティ（肩をすくめる）、オーマイゴッド、これも神の思し召しですか」
「そもそも我が家は浄土真宗なんだ、私の伜のお前も真宗なんだよ」
「オー、それはミミズ（また肩をすくめる）、イソメ（また肩）、ゴカイです釣りの餌。私は、お父様と、お母様と、天の父によって作られましタ」
「それじゃなにかい、私とばあさんと天の父とで釣○キチ３Ｐでもあったってのかい」
「オー、お父様、それはいけません、釣○キチのキチは放送禁止です」
「そういう次元の話じゃない、何で阿弥陀様を拝めないんだい」
「オー、『汝、偶像仏を拝むことなかれ』」
「なに言ってんだ、お前だった教会で女神像とやらを拝んでんじゃないかい、アーメン、ラーメン、ミソラーメンって」
「オー、そんな白亜紀のジョークを言ってはいけません。イエス様は偉大な方です。昔、ユダヤの国に飢饉が起こりました。食料も水もなく、人々は苦しみました。そこでイエス様は天に祈りました。すると天から、パンが下り、野菜が下り、」
「拾い食いして腹が下った」
「オー、お父様、オトしてはいけません」
「なにわけのわからないこと言ってんだポカ」
「（右の頬を触って）痛あい。でも、イエス様は言いマシた。『汝右の頬を打たれたら、左の頬を出しなさい』」
「言われなくてもぶちますよポカ、このトン○ラハウスの大冒険めポカ」
「……また、イエス様は言いましタ、『目には目を、歯には歯を』覚悟おおっ」
「そりゃハムラビ法典だポカ」
「オー、半ケツ（略して肩すく）、出血しました、血が流れています、シカシ、私は輸血してはいけません」
「ええい勘弁ならん、この吉利支丹伴天連め」
（権助再登場）「お待ちください、とめるなとは言われましたが、伊三郎様は勅使河原家の大切な跡継ぎ、一時の気の迷いでございましょう。『宗論はどちらが勝っても釈迦の恥』、およしください。ささ、伊三郎様、食事の用意が出来ております、どうぞそちらへ」
「オー、人はパンのみに生きるにあらズ」
「まだ言うか」
「パンが食べられないナラお菓子を食べればいいのに」
「つべこべ言わないで黙って食ってろ」
「まあまあ旦那様、気を静めてください、家内安心、商売繁盛が一番でございます」
「うーんお前はいいことを言うね、『家内安心、商売繁盛が一番』か」
「（にっこりして）はい、そのためにこの幸福の壺を買ってください」
　ででん。