１４８・献血をする理由としない理由
いろいろな趣味に手を出してはすぐに熱が冷めるということを繰り返してきたが、自分でも感心するくらい続いているものは献血である。
一つ、基本的にただである。ガソリン代はかかるがついでに買い物をするから気にならない。
二つ、漫画が読める。『ちはやふる』『仁-Jin-』『スラムダンク』『宇宙兄弟』『コウノドリ』などの傑作をむさぼるように読んだ。『銀の匙』で起業するあたりから置かなくなったのはなぜだろう。主人公が献血で倒れたとか。うちの妻スージーは献血をしないが、「一度やったら気分がわるくなってもうしないと誓った」そうだ。ぱたんと倒れたのか。ぷす。あれー。
そういう私も気分がわるくなったことがある。うっかり血圧の薬を飲んでしまい、「薬は飲んでいません」と詐称して始めたところ、視界が暗くなり音も聞こえなくなった。貧血である。死ぬかと思った。
三つ、お菓子が食べ放題、紙コップ自販機が飲み放題である。ドトールコーヒーや牛乳屋さんのカフェオレもうれしいし、シークヮーサーなど季節限定ドリンクもいい（小さい「ヮ」を使ったよ）。最近はまっているのは焦がしキャラメルラテ。口直しにコーンスープもいい。
今は甘いお菓子を食べると気持ちがわるくなるので（年齢よ）煎餅を二枚にとどめておく。娘のポーシャが小さかった頃はそうっと一本だけうまい棒を持ち帰ると喜んだのはいい思い出だが、今改めて考えると、申し訳ありません。
四つ、健康管理ができる。かつては圧着ハガキが送られてきた。今はウェブでガンマＧＴＰや赤血球数、コレステロールなどの数値を見ることができる。数値が基準値にないと文字が赤色になる。いくつかあるが私は赤血球容積とヘモグロビン量が高くて赤文字になっている。すごいことなのだろうか。オリンピックに出たりギネスブックに載ったりするのだろうか。逆に血小板数は少ない。事故に遭ったときに出血が止まらないのだろうか。血がだくだくと出たつもり。想像したら嫌だ。
五つ、針に強くなる。健康診断の採血を嫌がる人は多い。注射が嫌でインフルエンザの予防接種をしない人もいる。献血が始まれば４５分は針を刺されたままになるのだから、私は怖くもなんともない。
コロナ禍以来献血者は減っているというが、今回はうまく予約が取れなかった。いつもは朝一番に行ってその後ゆっくり買い物をしているが、今日の予約は午後１時である。前の日から算段を組む（そんなたいした計画ではない）。
日曜日。朝はランニングから。朝ご飯を食べないで十時ころブランチをとろう。洗濯も午前中に済ませたほうがいいな。終わってからはなにをしよう。ドライブレコーダーのSDカードが寿命なので買い替えよう。水槽のスポンジフィルタも欲しいからペットショップに行こう。漫画は『ゴールデンカムイ』全31巻を読み上げたばかりだ。なにがあるかな。『ちはやふる』の最終巻があるはず。クイーン戦を最初から読み直したいね。道中はラジコで「スナックラジオ」を聞こう。クルマを買い替えたらブルートゥースで音楽を鳴らせる。生活が変わった。
ブランチはバジルスパゲティ。ベーコンとカイワレを電子レンジで加熱して具にする。茹でたお湯は捨てずに庭の砂利の雑草にかける。グリホサート農薬を買うより安全で手軽だ。塩分も入っているからなお除草になる。麺は昭和産業の「蒟蒻効果」なので糖質四分の一カットでダイエットに最適だ。
いただきます。
ぱくぱく。
ごくごく。
ごくん。
あ。
血圧の薬を飲んでしまった。
献血のホームページを見る。「血圧降下剤を服用していても献血できることがある（医師の判断）」とあるが、私の場合はいちど三途の川の目前まで来ているから駄目である。
ホームページから予約のキャンセルをしよう。当日なのでウェブではできない。電話をする。「申し訳ありません」 私がいなければほかの誰かが採血ベッドに座るだけである。
呆然。これから半日、なにをしよう。
とりあえず血圧の薬を入れているトレイ（明治ブルガリアヨーグルトのふた）に赤ペンで「献血？」と書きました。