１３１・タフス大学入学ツアーⅨ「帰路墓参」
19時30分ころ。
「新宿まで送ってほしい」というスージーを振り切って離脱。何時になるかわからない。そもそも都内をクルマで走りたくない（走れない）。私だってポーシャといっしょにいたいよ。
「室内洗濯干しとスポンジ受けと布巾掛け買ってきて！！ それはパトリックの責任！！」スージーのチャット。ほぼヒステリック。今ごろ言われても。
再び道の駅八王子へ。ローソンでビール類とつまみを買う。ロング缶三本は多かった。
さあ寝よう。行きと違って大荷物がない。エアベッドに空気をポンプで入れる。横になれる幸せ。ベッド万歳。ただし持ってきた大量の段ボールがある。タオルケットを敷き、その上に段ボールをかぶせる。あまり人に見られたくない姿である。
セカストで300円で買ったシュラフを使う場面はなかった。伏線は回収されるとは限らない。
22時29分。「私いまＴ駅。」とスージー。大学の最寄りの駅だ。後日、母子で涙のお別れをしてきたと聞く。
日付が変わって四月二日零時24分。零時なんてふだん使わない。
「やっとホテルに着いた」とスージー。もしスージーに付き合っていたら大変なことになっていた。くわばらくわばら。ホテルの人、お疲れ様です。
午前五時起床。車中泊は早く目覚める。上半身は下半身より重いので、エアベッドの上ではどうしても後ろにひっくり返るように傾く。
手洗いを済ませる。ここのトイレはきれいでいい。
発進。どこを走っているかは理解していない。ただナビの宣託に従って進む。
埼玉県高坂インターで休憩。お土産を買う暇もなかった。
「東京のお土産売ってます」
私の心を読んだような幟（のぼり）がある。会社に人形焼。スージーに「ひよこ」や下仁田ねぎ煎餅など。自分には博多明太子おにぎり。
8時49分。スージーからチャット。
「ホテルのWifiパスワード入れて使えるのやっていいよね？ ポーシャの部屋のシャワー水漏れひどいって言っていた。酷かったら管理人に言うように言ったけど、言えないかも。明るいし、見に行け。昨日の買い物も。」
もう私は群馬にいます。
越後川口で給油。リッター181円。ふだんは160円くらい。
残された楽しみは食事だけだ。新潟のサービスエリアに入ってなにか名物を食べるか。山形で高速を降りて蕎麦やラーメンを食べるか。山形はラーメン王国。山形の高速道路にはサービスエリアはない。
新潟。まだ十時。昼ごはんにはまだ早い。空腹感もない。
山形。高速道路を走っていると、「ここで下りよう」という決断ができない。優柔不断力が発揮されてしまった。
山形県庄内地方で高速道路が途切れる。コメリで仏花と煎餅を買う。
鳥海山の見えるあるお寺へ。父の実家があったところだ。祖父が建てた家はとうにない。十年くらい前までは毎年夏になると母を乗せて墓参りに来たものだ。ここに祖父母と父が眠っている。
墓石に水をかけて清める。お花とお菓子を供える。
――父さん。あなたの孫が、東京の立派な大学に入学しましたよ。
父には孫を見せてやることができなかった。どうか、喜んでほしい。
残りのウイスキー宮城峡をかける。
神様。
「そなたは十八年間、よく子育てをがんばりました」とほめてください。
秋田に入った。そろそろお腹が空いてきた。食事しか考えることがない。以前行ったことのある店がいくつも潰れている。
自宅近くに本格インドカレーの店があることを思い出した。スージーは交際時代一度インドカレーの店に行って口に合わなかったので、そういう店には行かない。今日みたいな日にうってつけだ。キーマカレーセット。
おいしい。チャイも飲みやすい。ナンが手を三つ合わせたくらい大きい（手は三つない）。
帰宅。午後二時。食事休憩を入れて九時間の旅。無事に帰って来たことに感謝。往復1164.1kmの旅。
本日四月二日の午後、ポーシャは新入生歓迎会に参加する。東京一人暮らしの始まりである。
私はちょっと休んで、荷物を家に運び入れる。心は無。ぽっかり。虚無感ではない。「ポーシャの新生活のために荷物を送り届け、入学を祝う」という任務を達成したのだ。翌日は月曜日で仕事始め。さあ、働こう（ラボレームス）。ファーブルより。