１２８・タフス大学入学ツアーⅥ「中央高速」
さあ寝る用意をしよう。サンシェードをウィンドシールド（フロントガラス）に付ける。小さなシェードを運転席ドアのガラスに付ける。ポケットラジオを流す。明るいうちはショージ君の文庫（猫大好き）を読む。靴を脱いでサンダルをはく。
二本目のロング缶を空けて、そろそろ眠くなった。座席を後ろに倒して、と思ったら満載の荷物に引っかかってわずかしか倒れない。自転車にぶつかって力任せに押せない。
眠れない。
しかもこの格好はエコノミークラス症候群の危険性がある。エコノミーどころか宿泊費ただであるが。
作戦を変える。このクルマは幸い運転席の座面と助手席のそれがつながっている。肘掛けを跳ね上げ、横たわる。できた。向きを変えたり回転したり（外から見たら芋虫がもぞもぞしているように見えるであろう）考察した結果、頭を助手席側、脚を運転手側にして寝るとハンドルにぶつからないことがわかった。ただし腰と膝をうんと曲げているから、耐えかねて寝返りを打ちたくなる。そうなれば体をひねって顔を後ろに向ける。
苦しい。面白いことに90分に一度くらい目が覚める。なにかのリズムか（ノンレム・レム睡眠周期か）。そのたびにトイレに行く。ありがとう道の駅。道の駅はトイレだ。
うすら寒い。綿入りズボン、スノーボードウェアの上を身に着け、毛布をかぶっているが足の方から冷たい空気が侵入してくる。
今ごろポーシャは秋田最後の夜を過ごしているのだろう。アイスバーを食べたかな。ママの料理はなにかな。
後日尋ねたらBUMP OF CHICKENの「18祭（フェス）」を見て盛り上がっていたようである。
そう言えば午前中に「誰か泊めてください」「東京の人、会いましょう」とＳＮＳに書き込んでいた。ノーリアクション。
早朝目覚める。ブリトーをかじる。山谷あんぱんのクリームがおいしい。グルメ旅。
何時に行けばいいかな。会館からの文書を見る。
「四月一日は朝十時から」
「一週間くらい前にメールをしてください」 あ。
いきなり管理人さんに「『メールしてください』とここに書いてありますよね」なんて怒られるのか。そんな幸先のわるいアクシデントは避けたい。とりあえずセンド・ア・メイル。
いざ大学。空は晴れ、心も晴れ。緑も鮮やかな競馬場が見えてきた。これはあれだ。
「中央高速～う。右に見える競馬場。左はビール工場」
大学時代サークルのメンバーと歌ったのを覚えている。寮の友達とも歌ったな。ここを通るとどんな人もその歌を歌ったのだ。ドライブソングの名曲である。
歌詞とは逆に競馬場は左側。壁の合間からちらちら見える。右のビール工場はわからなかった。
ポーシャからチャット。「ママが充電器を忘れた。100円ショップでいいからアダプタとタイプＣのケーブルを買って」
無事こまちに乗って宮城県を南下している。スージーはなにかにつけ時間がかかる人なので心配していたが遅刻しなかったようだ。ポーシャも朝の電車に乗り遅れ、スージーが高校まで送り届けたことが何度もある（その後必ずスージーの機嫌がわるくなる。私に怒らないで）。
調べる。近くのダイソーが9:30開店。会館には「十時に行く」とメールしてあるのでそれには遅れたくない。
九時前にダイソーに着く。近所を歩いて時間をつぶす。坂道だらけの楽しそうな町だ。ＪリーグサッカーチームＦＣ東京の旗がほうぼうに飾られている。お寺があったので「ポーシャをよろしく見守ってください」と拝む。
九時半少し前、ダイソーの入口の前には十人ほどの人々が半円を描くように立っている。ほとんどはスマフォを見て暇をつぶしている。これまでの人生で100円ショップの開店を待っていたことってないな。
この人達は土曜日の朝イチにダイソーでなにを購入したくて待っているのだろう？
ぜひ見てみたかったが、それはまたの機会に（あるのか）。
ナビの「あと何分」の表示がカウントダウンされていく。巨大なサッカースタジアムを通り過ぎる。野球グラウンドとサッカーグラウンドが何面も続く。真っ直ぐな道路がアーケードのように満開の桜でおおわれている。
あった。サイケデリックなモニュメントが。大学のホームページやツイッターで見たモニュメントがそこにある。間違いない。ここがタフス大学だ。
入る。入れない。ゲートバーが下りている（ヌートバーではない）。注、そういう人がワールド・ベースボール・クラシックで活躍したのです。
インタホンで尋ねる。
「後ろから入ってください」 そうか後ろから入るのか。どこだ。後部座席には荷物を満載して見えづらいのであまりバックはしたくない。いやバックして入るという意味ではない。諦めてもう一度インタホンにすがる。
「バーを入るのではなくて、後ろを見てください。一か所、コーンを置いていない場所があります。そこからクルマで入ってください」
意外とセキュリティはゆるゆるだった。