８５・献血ガール

　献血をしていたらアイドルと言葉を交わして手を握った。

　いつの間にか献血の予約がウェブでできるようになった。会場と日時を設定してクリック。オウケイ。
　当日。半ドン仕事を終えて会場へ。ジョジョの続きを読もうという魂胆である。空からはときおり小雨が降ってくる。秋田の三月末はまだ寒い。通行人はコートをまとっている。そんな中で焼きそばを焼いている人達がいる。何かの罰ゲームであろうか。

　そういえばラジオで「献血感謝祭」のお知らせを聞いた。臨時の受付に人が並んでいる。予約の者だと話すと中に入れてくれた。いつもどおりの健康チェックと問診を受ける。
　落ち着いたので状況を整理する。秋田県献血推進ガールでAKB48の「ひじりん」さんのミニコンサートやトークショーがある。
　お子様は子供救護服を着て救急現場に駆けつけることができる、ではなく、献血キャラクターと写真を撮ることができる。
　タロット占いは一度見てもらったお姉さんがいる。「献血をすると幸せになります」とは言わない。
　ハンドマッサージーは一度してもらったことがある。ネイルケアーもしてもらったことがある。それは嘘。
　フリードリンクコーナーもある。どうせ献血中はドリンク飲み放題なのだから期待していなかったが、あとで行ったら果汁100%の缶ジュースをいくつもくれた。
　献血焼きそばはどのへんが献血かと言うとひじきやアサリなど鉄分豊富な食材を使っているとのこと。火を使うからこれだけ寒空の下なのか。ご苦労さまです。
　献血スープは血のように真っ赤だったらいい話なのだが確認できなかった。ボルシチ希望。

　いつものように献血開始。シーザー・アントニオがワムウと戦っていると、職員さんに声をかけられた。
「ひじりんさんが『献血ありがとう』のお声がけをするキャンペーンがありますが、よろしいですか」
　えっなにそれ。まさに「会いに来るアイドル」である。こちらは腕に太い注射針を刺されて身動きができないのである。お見舞いか。その後別の職員から映像利用の許可を求められる。ニュースになっちゃったりするのであろうか。

　情報が多すぎる。ひじりんさんにお声がけをされたら何を話せばいいのか。シーザーは死んじゃったんだろうか。焼きそばはまだ残っているだろうか。脈は乱れていないだろうか。

　ひじりんさん登場。係の人やカメラマンを引き連れて。グレーのチェックの制服のようなコスチュームに、選挙の人のようなタスキを斜めにかけている。いやタスキをタスキがけするのは当たり前か。
　背はそんなに高くない。色白で可愛らしいお嬢さんである。後日調べると、高校三年生の年齢だ。
　制服にそぐわないのは驚くようなミニスカートである。いや実際驚いた。そうだ、芸能人なのだ。ガラス越しに大勢の人が彼女だけを見ている。

　ひじりん接近。
「この度は献血にご協力いただきありがとうございます」
「あっ、ご苦労さまです」
「今後ともご協力よろしくお願いします」
「あっあのっ、せっかくなので握手していいですか」
　言っちゃった。
「握手はアルバムをご購入していただいた方のみとなっております」
と来れば落ちらしい落ちになるのだが、そんなことはなかった。
「こちらこそいいんですか？　ありがとうございます」
「ありがとうございます。応援しています」　いつからだ。
「ありがとうございます」

　小さな手だった。