８０・献血タロット
気がつけばこちらのサイトでも八十本目。旧サイト（昔はホームページと呼んでいたが）の頃のような密度ではないが、まさにぼちぼちという感じである。昨年にはニフティの仕様変更でサイトが移転になった。親会社が富士通から電器屋になったからかもしれない。移転そのものは仕方ないが、そのせいで各ページの下にある「もどる」がすべてリンク切れになり直す手間も八十倍でめんどうくさい。
さて私の趣味に献血がある。人助けになるし健康観察もできる。おまけに漫画も読み放題である。昨年は医療ものの『仁』やバスケットボール界の金字塔『スラムダンク』で大きな読み応えを受けた。『銀の匙』もおもしろかったがある日忽然と姿を消してしまった（中勘助の小説でない方）。かと言って係員さん（店員さんと言うのも変だ）に「この間まであったあった『銀の匙』はどこにいったのですか」と尋ねるのもいい歳して恥ずかしい。小さいことを気にして聞きたいことも聞けないのも恥ずかしい。羞恥心無限ループ。
イベントもある。あるときは近くのマッサージ屋さんが出前マッサージを行なっていた。聞けばその店の新人さんで、実技講習を経て腕試しと宣伝を兼ねてこういう外回りに出ているのであろう。いい香りの美容クリーム（普通に生きていたら一生使わない）を塗ってもらって、両手をもんでもらうのだ。新人さんは三十くらいの愛嬌のある人で、女性にずっと手をもんでもらうなんて日常ないことで、何を話したかあまり覚えていない。きっと今際の際（いまわのきわ）の走馬灯に出てくる思い出名場面第八位くらいには入るであろう。
今回のイベントはなんと占いである。行くと「今日は混んでいて」と一時間以上待たされるのだという。占いブームなのか。そんなに占ってほしいのか皆さん。占いの時間は決まっているそうで間に合うかどうか不安になる。せっかく来て「はいここまででーす」とは悲しくて泣きたくなる。そんなオチは嫌だ。
それは杞憂で受付カードに氏名年齢生年月日など必要事項を書く。最後に「何を占ってほしいか」とある。これは難題だ。
「自分は何歳まで生きられるか」 聞いてどうする。
「どうやったら仕事で成功できるか」 それはちょっと聞いてはいけない気がする。
「金運を上げるには」 夢がない。
悩んでいるうちに、サンタクロースのようなあごひげ、でっぷり太った体にジーンズのオーバーオールというどこからどう見ても堅気とは思えないおじさんから呼ばれる。マネージャーであろう。
衝立（ついたて）の中に入ると、小柄な女性が座っている。ウェブサイト（旧称ホームページ）によると異名は「和服の魔女」。今日もばっちり桜色の着物をお召しである。
雑談をして懸案の「何を占ってほしいか」を話し合う。悩んだ末に口から出たのは「自分の一番の才能は何でしょうか」。
「そういうのはちょっと占いでは……」とやんわり否定される。「今後の自分の運勢、ではいかがでしょうか」
占いはタロットカード。タロットと言えば『ジョジョの奇妙な冒険』第三部のスタンドである。ただし当時は「スタープラチナ」「ハイエロファントグリーン」「パープルハーミット」「イエローテンパランス」なんて色まで含めてカードの名前だと思っていた。
聞き手でない方で三つにカットする。なぜ左手かと尋ねると、「意図的でなく自然な自分が表れる」とのこと。三度カットする。
占い師さんが一枚ずつカードを出していく。「まず今のあなたの状態です」 ドバアアン。
〈ワンドのエース〉（そう言ったわけではなく、英語と別の外国語でカードに書いてある）
なんて中途半端な。これがポピュラーなカードであったら、それが自分のシンボルになるかと思ったのに。
「あ、悪くないですね」 でもどうなんだかわからないよ。
次。近い未来。ゴゴゴ。
〈ペンタクル〉
なんだっけ。その時私は内心「イカやタコの触手だ」と思っていた。帰宅してから調べたらそれはテンタクル。ペンタクルとは五芒星である。さらにもう一枚を重ねる。チュミミーン。
〈エンプレス＝女皇帝〉
出た、ジョジョ三部。
「これはよくないですね。お金関係のトラブルです」 金運、聞かないでよかった。
「あなたからお金をだまし取ろうとする人、詐欺師が出てきます」 なんて怖い！
最後に、自分の将来。ズキュウウウン。
外国語でモートレみたいなことが書いてある。それ、知ってるよ。英語のmortalだ。
〈デス＝死神〉
デスって。私の将来は死なのか。
「もう一枚」 メメタァ。
〈運命の車輪〉
あまりにショックなのと占い師さんが声を落としすぎて聞こえないのと（たぶん周囲に気を使った）でよく覚えていないが、今までの自分から新しい自分に生まれ変わる機会なのだという。
騙し取られるお金ならありません。