１２・ハードラック４８

　あけましておめでとうございます。

　昨年はついに一年間更新なしでした。年も改まったことですし、何もない正月休み、今書かなければいつ書くという気持ちで参ります。
　さて何の話にしましょうか。正月ですから、初詣でなんかいいですね。みなさんお出かけになりましたか。私も行きましたよ。近所の神社に。石段が長くて大変で。本殿に入れば、ジャンパー姿のお爺ちゃんが灯油ストーブで暖を取っている。注目の巫女さんはおらず、半世紀前は巫女さんだったかもしれないお婆ちゃんがお守りや破魔矢を売っている。田舎らしくのんびりしてましたね。

　そこんとこ行くと、都会は怖いね。東京の大きなお寺に行ったんですよ。名前は言えないけれど、「サンダーゲート」という莫迦でっかい提灯があって、仲見世には外人がうじゃうじゃいるようなところ。平和じゃなくて、センソウ寺。

　ちょっと前にそこでおみくじを引いたんですよ。小銭を入れて、からからしゅっ。ああ、これは筒から菜箸みたいなのを出した音ね。で引いてみたんです。東京ツアーに気分は大興奮です。

「凶」

　なんですかこれは。横になった区ですか。首をかしげたミステリアス・パートナーですか。なんて禍々しい。舶来ゲーム機を凶箱、凶箱なんて呼んでいた罰が当たったのでしょうか。だからって久しぶりに上京したおのぼりさんになんてハードラック。平和でなくてセンソウ寺。

　まあいい、落ち着いて文面を読みましょう。この達筆の五言絶句。古人の知恵でありましょう。

否極方無泰
花開値晩秋
人情不調備
財宝鬼来偸

　む。意味はよくわかりませんが、「否」だの「無」だの。人情がない、財宝には鬼が来る。嫌な予感がします。まあ気を付けろと古人が警鐘を鳴らしてくださるのでしょう。解説を読みます。

「八方が塞がり、通じる道がないことでしょう。」
　いきなり八方塞がり。虞や虞や汝を如何せん。

「花は開くが、晩秋のような冷たい風にあたり、たちまち枯れてしまうでしょう。」
　それはただのぬか喜びだ。悪辣な。

「お互いが自己主張するため、人情心も揃わず、苦情が絶えないことでしょう。」
　嫌な家庭。ソフトウェア的に。

「蓄えてきた宝や財産も鬼が現れて盗み、財産がおいおい減っていき、ついに貧乏となってしまうでしょう。」
　嫌な家庭。ハードウェア的に。どっちもか。「おいおい減って」「ついに貧乏とな」るというのがリアルな描写。ただの嫌がらせか。

　……ってなんじゃーこりゃー。これは破滅の書か、恐怖新聞の折り込みチラシか。地獄の黙示録だってもっと華がある。さすが平和でなくてセンソウ寺。

　そうだ裏だ。裏にはお約束の項目別ワンポイントアドバイス（というのか）があるはずだ。それを見よう。

願望：　叶いにくいでしょう。
病気：　危ういでしょう。
失物：　出にくいでしょう。
待ち人：　現れないでしょう。
新築・引越：　悪いでしょう。
旅行：　良くないでしょう。
結婚・付き合い：　全て悪い結果を生むでしょう。

　あの。神様仏様、私、三年前に結婚したのですが。さらに順番は逆になりますが、新居に移ったばかりなのですが。もっと言えばこの日は、前から一度お会いしたかった方と待ち合わせをしていたのですが。
　文章的に言うと、悪いことを淡々と書き連ね、最後の項目で「全て」とどん底に叩き落とすところがプロの技だ。何のだ。何の恨みがあってこんなことを達筆の古人よ。

　待てよこんなのを持ち帰ったのが悪いに違いない。かと言ってもう一度某東京有名下町観光名所テンプルに行くわけにはいかない。近所でおまけしてもらおう。
　そんなこんなで数日前に初詣でに行った神社にまた来ました。石段が大変。よそんとこのものですけれど、お頼み申します。二礼二拍一礼。手水で浄めて、これで完了。


　落ちらしい落ちはないのですが、気になったことが一つあってね。くじは「凶・吉・末吉・半吉・小吉・末小吉・大吉」の七種類だと裏に書いてある。この順番は何でしょう。昇べきの順だとすれば、吉よりも半吉、小吉の方が上なのでしょうか。末小吉なんて語感がミクロの世界です。半吉は吉のハーフサイズではないのか。恐るべし、平和でなくてセンソウ寺。