１０４・ラージスト礼賛
なんの取り柄もないけれど、靴のサイズは３０センチ。
度を越えて幅広で甲高なので、長さとしては２８．５センチくらいなのだが、それだと足が締め付けられて痛くなる。だから買い方としては店員さんに「この店で一番大きな靴はどれですか」というオーダーになる。
靴下はもっと深刻で、男性用の靴下はたいてい２７センチである。それでインターネットで買うようになった。ビッグソックスやレモコロというお店である。品質には満足しているが、いささか高い。一足７００円もするのである。普通は三足５００円なのに。足セレブ。
ロードサイドに新しい店ができている。「大きい人の店 ラージストランド」。入ってみよう。これが当たり。靴下のデフォルトは２９センチである。４Ｌの下着シャツもある。ただし４Ｌの下着シャツは丈が長いのでシャワートイレには要注意だ（濡れる）。
気に入ってカタログを頂戴する。これがなんというか癖が強い。
「リラックマ」
「ベティ・ブープ」
「クレヨンしんちゃんがダブルピース」
「ミルキーのペコ＆ポコが舌なめずり」
「スポンジ・ボブ（ほとんど大空魔竜ガイキング状態）」
「ピラフ大王」
このような可愛らしいキャラがパーカーやトレーナーの前面に鎮座しているのである。あなたが四十代男性だったら着用できるか。
スカジャンはこうだ。
「錦鯉の滝登り」
「昇り龍」
「風神雷神」
「座頭鯨」
参りましたレベル。「自分らしさを自慢できる」そうだが、ちょっと自慢する自信がない。
「銀河鉄道９９９のメーテル」
メーテルはちょっと欲しい（松本零士ファン）。
この世界観でも至高の座にいるのは北斗の拳である。
「ユリア わたしも天に帰りましょう」
「ケンシロウ きさまには地獄すら生ぬるい」
「ラオウ ならば神とも戦うまで」
「ハート ひでぶっ!!」
これを着るところを想像するのは楽しそうだ。
北斗の拳パーカーで赤い羽根共同募金。
北斗の拳パーカーで学校の三者面談。
北斗の拳パーカーで彼女の両親に結婚の申し込み（特に小室Ｋさん）。
北斗の拳パーカーで赤い羽根共同募金（もらう方）。
北斗の拳パーカーで和平交渉。
時は遡って昨年まで背広が古いのが悩み事であった。袖がほつれてきてぶさぶさになった布地をはさみでちょきちょきする。みみっちい。
四月、ちょっとドラスティックな転勤（どんなんだ）があったので、気分転換に紳士服のＡ店へ。吊るしを選ぶ。肩のところがきつい。大きいのを出してもらう。袖がちょっと長いのは気にならないが、丈が長いのは格好わるい。鏡で背中を見ると上着がお尻まで隠してしまう。変な人だ。兄ちゃん店員が「このブランドは大きめですし、伸縮が効きますよ」というので購入。二着目半額セールで（まんまと）二着目を買う。
着てみるとやっぱりきつい。クルマのハンドルに腕を伸ばすと抵抗を感じる。せっかく新しい背広を二着も新調したのに、早く帰れる日や動きの少ない日に着るようになってしまった。
気付いた。以前は父の会社が取引している紳士服の販売会に行き、背広をオーダーしてもらっていたのだ。いろんなところにメジャーを当てられて。父はスーツを着る職業ではないから私は毎年のように（身分不相応の）いい服をもらっていた。なんと贅沢だったことか。
オーダースーツの店を探す。例の店にあるのはパターンオーダー。評判のいい店は仙台（県外）にある。あきらめる。
そしてラージストランドへ。４Ｌのセーターや３Ｌのブレスサーモタイツを買う。何回か利用していたが、背広コーナーには行ったことがなかった。ああ背広もあるんだ。どんなものかな。サイズ記号がＡ体（標準）、Ｂ体（太め）ではなく、いきなり「Ｋ」である。世界が違う。マヌカンさん接近。店に入るときには背広を買う気はなかったが、一週間後には背広を受け取る手はずになった。
着用。最高だ。服を着ていないみたいだ。肩を回しても体をひねってもなんの抵抗もない。（五十肩の痛みを除く。）